漁師生活の魅力FISHERMAN'S CHARM

塩谷雄一さん

生年:1980年 出身:兵庫県神戸市 船員歴:20年
所属:香住漁港 沖合底びき網漁船 鶴松丸 船員

漁師になろうと決めた理由は何でしたか?
また、神戸から香住に来て頑張ってみようと思われた理由はありましたか?

香住に来ようと思った理由は、中学2年のときに、どこの高校に進学するかって話が出て、高校の一覧にあったからですね。元々小学生の頃から父親とよく一緒に釣りをしとったんでね、漠然と釣りに関係する仕事につけたらと思っとったんですよ。それで、普通の学校に行って生活するより、趣味なのかもしれへんけど、香住の水産高校に興味を持ちました。それを親に言うと、最初は「はあ、何言うとんねん!」って感じでしたが、推薦枠のために一生懸命勉強して担任の先生と面接とかしていると、親も折れてくれました。

そんで受験して入ったけど、なかなか大変やった。当時の寮生活は上下関係とか規律がきつかったんで、しんどすぎて学ぶというより耐えるしかなかったかな。それでも、2年3年になったら実習が始まって、ハワイに行ってマグロを獲ったりしたときはほんまに楽しかったな。
まあ学んできたことがあるから、特殊な免許は持っていなかったけど、高校生活3年間香住におって、仕事として漁師をしたいなと。ただ、周りに誰も漁師の知り合いがいないし、親もおらんので、一から自分で探すことに……知り合いに探してもらったりして、19歳の頃に初めて船に乗りました。て言うても、全然知らんおっちゃんばっかりで、自分は関西弁やから漁師の香住弁が全く分からへんし、ほんまに漁師しても耐えなあかんなって思いました。負けず嫌いやから、辛抱して仕事して、いろんな人と付きおうて、それぞれ仕事のやり方があるから、ええとこはええとこで盗んで、悪いとこは気いつけて、なんていうかな、漁師の真価になるかなと思って。そういうええとこを若い子にも見てもらって盗んでもらったらと思うね。仕事も段取りが一番やと思うから、効率よく仕事ができるふうに持っていかんと、底びきの世界って寝られへんからしんどいので。そういうのを意識して仕事するかな。

漁師生活のおもしろさや喜びはどういうところですか?

おもしろさか……珍しい魚が入ったり、値段の良い魚が入るとテンション上がったりしますけど、基本的におもしろさは求めていなくて、しんどい仕事なんで、仕方なく働いとる感じかな。喜びはありますよ。消費者の声は直接には分からへんけど、自分らが獲ってきた魚を家族や周りの人たちが美味しいって言ってくれるんが嬉しいな。昔と違って魚を獲ってからの処理の仕方が良くなってきてるんで。無菌水の使用や冷凍設備など、鮮度重視で持って帰ってきてるもんやから、自慢して配れる魚であり、売れる魚だと思っています。鮮度保持の徹底は自分の乗っている船では口うるさいくらいで。

底びき網を引き揚げたとき、大きいカニが獲れたり大漁だというような喜びはありますか?

実はたくさん網に入りすぎたらしんどいですよ。大漁はすごいって感じですけど、網の中で圧迫されて、魚が傷ついたり、カニの指が折れたりして魚価が下がってしまうんで、網に入るんは程々がええっていうのが、正直な話です。

船には船員室や休憩スペースがあると思いますが、雰囲気はどうですか?

基本ね、漁場に行く航海中でしか、みんなでご飯を囲んで話すことはないかな。そんときは世間話が多いけど、漁労のことも話しますよ。セリで魚を売ったときに仲買人さんと話して、こうしてもらいたいとか要望があったときは、全員で話をしますね。こういうことを言われとったから、こうしようとか。悪い話があったら船長から注意されたりしますけど、わいわいと喧嘩もなく過ごしてますよ。船によって雰囲気は違いますけど、仲間意識はありますね。

香住で結婚されてご家族がおられますが、地域の方との関わりはどうですか?

正直、自分の方の親戚はこっちにおらへんし、嫁さんの親戚周りに魚を配ったときに、「美味しかったわ」と、そっから輪が広がっていくくらいかな。後は店で酒飲んどるときに話しとったら、浜で会う人やったりとかね。人と話すんは好きやから、多少なり輪が広がっていったかなと思うけど。
やっぱりカニとか魚をお裾分けしたら、野菜とかもらったり、そういうつながりがあるのはありがたいですね。自分も料理するんで、こうしたら美味しいって、お裾分けのときに一言付け加えたり、美味しいって食べてもらえるんが一番嬉しいです。

漁師についてでも、個人的なことでもかまいませんが、これからの目標がありましたら教えてください。

目標っていうよりも、毎年毎年船も新しくなってくるし、設備も変わってくるから、仕事に関してはそこについていけるように、船の中でできることは全部していきたい。その時その時に魚にしろ、カニにしろ、エビにしろ、ホタルイカにしろ、良いものを持って帰ってくるだけ。目標ではないけど、それしかないかな。悪いものを持って帰ってきたら一発でアウトなんでね。船の名前が落ちるし、そこだけは徹底してこれからもやっていきたい。

夏3ヶ月の休漁期間はどのように過ごされていますか?

ぼくね、あまり好きじゃないんですよ、陸におるのが。漁期中はほぼ寝られへんし、しんどいんですけど、ずっと体動かしているほうが良くて。陸で朝起きて、仕事行って、夕方帰ってきて、ご飯食べて、お風呂入って、寝て、朝が来て、一日終わるじゃないですか、そういうのがあまり好きじゃないんですよ。
今はコロナでできれへんけど、家族で旅行に行ったりはしますよ。3ヶ月間のどこかで一週間くらい。拠点が神戸にあるんで、そこからどこかに行ったりは毎年してましたね。それ以外にもバーベキューしたり、子どもを連れて釣りに行ったりだとか。子どもを漁期中9ヶ月間はほとんどかまってられへんので、やっぱりこの時期だけでもね。

これから新しく入ってくる船員さんに対して、良いところと悪いところを含めて何か一言お願いします。

やっぱりそれなりに魚に興味があるとかじゃないと、たぶんいきなり船に乗せられて、無茶苦茶じゃないけど、しんどい仕事したら……しんどいって言っても度が分からへんと思うから、ほんまに興味があるんやったら乗ってみて、できるんであれば続けていってくれたらええかな。それなりの覚悟がいると思うけど、正直な話ですよ、綺麗ごとは言われへんから。ええとこは陸で働くよりはお金がいい、まあ、そこしかないかな。他にも小さいことはいっぱいあるけど、それはその時その時のこと。まあ仕事やから、しんどいもんはしんどいし、がんばらなあかんことはがんばらなあかんし、それは陸も沖も一緒やと思う。特殊は特殊ですけどね。
長く続けとる人は70歳でも現役の漁師とかいますから。その人も何かしらの魅力があってやっとんかなとは思うけど、そういうことを何にも思わずに乗っとる人もおるやろうし。それはその人の感性なんじゃないかと。ぼくは、やりたいからやってる、それだけかな。なんかがあるからやりたいと思うんだろうけど……魚釣りから始まって、今もしてますからね。